
美容師志望が「床屋」志望に変わった10代の頃
僕の母は元美容師でした。物心がつく頃にはすでに仕事を辞めていましたが、小さい頃に髪を切ってもらった記憶は、今でもしっかりと残っています。
中学生になると、だんだんと見た目を気にするようになり、自分で髪をセットするようになりました。その頃から、なんとなく「美容師になりたい」と心の中で思い始めていました。
その想いは次第に強くなり、「高校には進学せず、美容専門学校に行こう」と本気で考えるようになりました。ですが、当時熱中していた野球を続けたい気持ちもあり、高校進学を選びました。
両親からは、安定した職業に就きなさい、美容師なんて長続きしないと反対されました。ですが、そう言われるほどに反骨心が芽生え「絶対に美容師になってやる」と強く心に決めました。
当時は、美容師か床屋かなんて、深く考えたことはなかったんですが、友達の親に床屋をやっている人が多くて、その中のひとりにこう言われたんです。
「美容師になるんだったら、絶対に床屋の方がいいぞ。年を取っても続けられるからな」
この言葉がきっかけで、床屋という職業にも興味を持ち、いろいろと調べ始めました。
当時、日本では今ほどバーバー文化が浸透しておらず、床屋の情報もほとんどありませんでした。ネットで検索して出てくるのは、アメリカのバーバーばかり。
そんな中、僕の価値観を180度変える動画に出会いました。
それが、高校生の時に見た「Franks Chop Shop(フランクス・チョップ・ショップ)」の動画です。
ロサンゼルスやニューヨークに店舗があり、タトゥーだらけのスタッフたちが床屋をやっているその姿は、それまでの床屋のイメージを一気に塗り替えました。
めちゃくちゃカッコいい。そう素直に思いました。
その瞬間、美容師ではなく「床屋になる」と決意しました。
動画で見た“あの世界観”がアパッシュにあった
理容学校に入学して、最初に話しかけた相手が、今一緒に働いている「武くん」でした。
僕より10歳年上の武くんが、帽子をかぶって登校していて、それがなんだかすごくかっこよく見えて。
「かっこいいですね」と声をかけたのがきっかけです。
話していくうちに、武くんがアパッシュという理容室でアルバイトをしていると知り、「今度、髪切りにおいでよ」と誘われました。そこで初めて、川上さんの存在を知ることになります。
アパッシュに初めて足を踏み入れたとき、すぐに心を奪われました。というのも、高校時代に衝撃を受けた、アメリカのバーバー文化を紹介する動画の世界観とそっくりだったからです。
タトゥーを入れ、スタイルにこだわり、アメリカンカルチャーを全身で体現している。
「日本にこんな床屋があるのか」と、本気で驚きました。
そして、心の底から「かっこいい」と思ったんです。
それ以来、僕はずっと川上さんに髪を切ってもらうようになりました。
学生時代は、校内での技術大会に向けた練習が放課後によくありました。練習を終えたあとは、アパッシュへ向かい、武くんと一緒に川上さんに技術を教わる日々を送っていました。
そんな生活を続ける中で、「自分もいつかこの場所で働きたい」と強く思うようになりました。
そして、専門学校2年生になり就職活動が始まったタイミングで、川上さんに「アパッシュで働きたい」と伝えました。
でも、当時のアパッシュはカット席が3つしかなく、すでに川上さん、かおるさん、武くんの3人でいっぱいの状態。
やんわりと「今は難しいかも」と遠回しに断られた気がします。笑
そのため、卒業後は別のお店に就職することに決めました。そのお店が、ロッドヘアーです。
毎日全力|バーバーライフのスタート
アパッシュに入社できないとわかった後、就職先を探していたときに出会ったのが、「ロッドヘアー」という理容室でした。
この店のオーナーは、アパッシュの川上さんと同じ場所で修業をしていたという縁があり、川上さん自身もおすすめしてくれたんです。
ロッドヘアーは予約制ではなく、飛び込みのお客さんが来るスタイル。
だから、すごく忙しい日もあれば、ゆったりとした日もあります。
そんな環境のなかで、仕事のスピード感や効率よく動く力を、自然と身につけることができました。
プライベートも充実していて、オーナーが旅行に連れて行ってくれたりと、仕事と遊びをうまく両立する働き方も学ばせてもらいました。
ロッドヘアーでの学びは、いわゆる「教えてもらう」というより、「一緒に体験しながら覚えていく」スタイルでした。
技術的な部分の多くは、SNSにも情報があまり出ていなかった時代。
だからこそ、川上さんに髪を切ってもらうたびに観察し、勉強していました。
正直、誰かに丁寧に教えてもらった記憶はあまりありません。とにかく自分で試行錯誤を重ねていました。
基本的な技術はオーナーから教わり、それ以外は自分で学んでいったという感覚です。
僕は一度もウィッグ(勉強用のカット練習用頭)で練習したことがありません。
人の髪質や骨格はそれぞれ違います。結局、実際に人の髪を切らなければ上達はしないと思っていたので友達を呼び、紹介を繋げて遊びにもいって、モデルとして切らせてもらっていました。
その意味でも、野球で多くの人と関わってきた経験が、ここで活きたと感じています。
自分がここまでスキル向上、バーバーにのめり込めたのは、川上さんの存在と学生時代の仲間の存在があったからです。
当時は、今のようにバーバースタイルがSNSや雑誌で流行っていたわけではなく、これからという時代。
そんな中で、川上さんが先陣を切ってセミナーを開き、スタイルを広めてくれていました。
僕自身も「かっこいい」と思えるスタイルを、もっとたくさんの人に知ってほしくて、無我夢中で学び続けました。
そして、アパッシュにいる武くん、そしてMr.Brothers Cut Clubの同級生。
仲良かった3人が違う店で働いていたけど、誰にも負けたくなかった。
だからこそ、がむしゃらに努力したし、それが何よりも楽しかった。
「絶対に名前を轟かせてやる」そんな思いで、毎日を過ごしていました。
負けず嫌いが日本一に導く
働きはじめて3年目。自分の実力を試したくて、バーバーバトルに出場しました。
初出場の結果は予選敗退。
正直、めちゃくちゃ悔しかった。
自分の中ではできているという手応えがあったし、上位を狙えるはずと思っていたからこそ、「なぜ自分じゃないのか」と納得がいきませんでした。
この経験から学んだのは、「みんなと同じことをやっていては勝てない」ということ。
そこから、ある新しい取り組みを始めました。
東京で「フリーマンズ スポーティングクラブ」で働く友人が面貸しをしてくれました。
毎月1回2日間、東京に通って現地のスタイルや技術、感性を吸収するようになりました。
「誰よりも多くの人を切りたい」
その一心で、お店が終わって東京に飛び、旭川空港に戻るとすぐ店に直行して働く。そんな生活を2年間続けました。
東京での施術は、最初は指名無しのお客様ばかり。でも、次第に指名をもらえるようになり、スキル面でも、コミュニケーション面でも、自信がついていきました。
そして、何よりも大きな気づきがありました。
「旭川でしかできないことがある」という確信です。
東京では、ある程度お店の知名度があれば自然とお客さんは集まります。けれど、来店者の多くは髪型に強いこだわりを持っていないことが多かったのです。
一方、旭川のお客様は「こういうスタイルにしたい」という明確な希望やこだわりを持って来店される方が多いです。
そんな人たちの理想を形にする。それが、自分にとってのやりがいであり、バーバーとしての存在意義でもあると感じるようになりました。
この2年間の経験を経て、旭川で理容師として生きていくことへの強い覚悟が芽生えました。
旭川で求められる技術や完成度の高さには、厳しさも伴います。
そんな中で、経営者として奮闘するロッドヘアーやアパッシュオーナー達にも尊敬の気持がより深くなったことも学びの一つです。
迎えた2018年のバーバーバトル。
全国大会でついに日本一の座を獲得しました。

あの時の悔しさをバネに、積み重ねた結果が、ようやく形になった瞬間でした。そしてこの出来事が、自分のバーバー人生にとって大きな飛躍のきっかけとなったのです。
「待ってたよ」いよいよアパッシュへ
バーバーバトルで日本一を獲得したあと、僕の中には次のステップへ進みたいという強い思いがありました。
選択肢は2つ。
独立するか、アパッシュに入るか。
独立はまだ自分にとってわからないことばかりで、リスクも大きいと感じていました。
僕が理想とするバーバーを追求したい。そう思いアパッシュを選びました。
「ここで働きたいです」
そう言った僕に、川上さんは一言。
「待ってたよ」と。
ずっと働きにきてくれることを夢見て、お店を大きくしてくれていた川上さん。そして、自分のバーバーを貫きたい想いが、この日ようやく重なった瞬間でした。
バーバーバトル日本一になったことで、「引き抜かれた」という噂も立ちました。
でも、それはまったくの誤解。
僕はただ、自分の意志で「アパッシュで働きたい」と思っただけ。ただ、それだけなんです。
バーバーとしての葛藤と成長
アパッシュに入社したのは、バーバーバトルで日本一になった直後のこと。
同じタイミングで入社したのが、西さん。以前からアパッシュで働いていたたけるくん。
年齢的には、僕が25歳で、2人は10歳以上年上。
入社時の意気込みは 「川上さんより売上1位を獲る」そのくらいの気持ちで、飛び込みました。
全国1位の称号を手に入れた直後ということもあり、反響は予想以上に大きなものでした。
SNSのフォロワーは急増し、他店からの注目も集まり、入社早々、予約は溢れかえっていました。
でも、なぜか、天狗になれなかった。というより、なれなかったんです。
アパッシュに入ってからというもの、「カルチャーとは?」「ルーツとは?」「バーバーってそもそも何なのか?」
そんな根本的な問いが次々と湧き上がってきました。
頭では理解していたつもりだったけれど、それを「バーバーとしてどう表現するのか」という部分が、まったくできていませんでした。
バーバーバトルで評価された技術と、バーバーとしての本質には、実は大きなギャップがあることに気づかされたのです。
だからこそ、「アパッシュで学ばなきゃいけない」と、強く思っていた。
周囲からの期待、バーバーバトル日本一の肩書、そして自分自身の未熟さ。
そのギャップに、押しつぶされそうになった1〜2年だった気がします。
それでも、アパッシュでの日々は、何よりも楽しかった。
毎日が濃密で、仕事終わりには「バーバーってこうあるべきだよね」「俺はこうなりたい」と、深夜2時まで語り合うのが当たり前になっていました。
当時は、SNSが急速に広がり始めた時期でもありました。
バーバーの世界観・・タトゥー、バイク、車、ビンテージ……そうしたスタイルが可視化され、憧れとして浸透していった時代。
その時代の中でも、僕たちはひとつの約束を決めていました。
「見た目だけじゃない、“本当のかっこよさ”を追求しよう」
「人のためになること、小さな積み重ねをコツコツと続けること」
「見た目ではなく、内側からにじみ出るかっこよさを目指すこと」
その思いを胸に、仲間と語り合ったビジョンは、今、少しずつ形になりつつあります。
鈴木琢将の野望
WORLD BARBER CLASSIC 優勝を目指す
2025年7月14日、World Barber Classicに出場します。目標はただ一つ、優勝。
去年アメリカに行ったとき、自分の「好き」をもっと深く知りたいと感じました。
次にアメリカへ行くときは、バーバーとして胸を張って立ちたい。WBCで優勝すれば、アメリカでカットショーをするチャンスがある。それをつかみたいんです。
「世界一の称号」なんて正直どうでもいい。でも、バーバーとしてアメリカに行く。それが今のリアルな目標です。
後輩を育てることは、自分を育てること
アパッシュに憧れて入ってくるスタッフを、しっかり育てていきたいと思っています。
川上さんがそうしてくれたように、スキルだけでなく「人としてどうあるべきか」を伝えていくつもりです。
この仕事は、結局「人と人」の関係しかないです。だからこそ、人としての芯を育て、ジブ自身も成長していきたいです。
家族のために、さらに強く働く
11月に子どもが生まれる予定です。家族が増える喜びとともに、家族を守る責任も増えました。
これからは、バーバーとしてだけでなく、「父として」も強くなっていきたいと思います。家族のために、もっとしっかり働きます。
鈴木のお気に入りの道具3つ紹介
常にバーバーとして、人間として進化と挑戦を続ける鈴木。そんな彼の手元には、“鈴木らしさ”を体現するこだわりの道具がある。
バーバーとしてお気に入りの道具たちを紹介しよう。

1、ナルトシザーハサミ
既製品ではなく、フルオーダーで作ってもらったナルトシザー。初めて「本当に良いハサミ」と思えた一本です。
工場長が、自分のこだわりをすべて反映してカスタムしてくれました。
ナルトシザーは、髪をとても柔らかく切れるのが特長。もともとはパツンと切れるタイプのモデルでしたが、「もっと柔らかく切れるようにしたい」と相談し、柳刃と剣刃の長さを短く調整しました。刃の形状も丸く仕上げてもらいました。
長めのハサミにハマっていた時期もありましたが、細かい部分にも対応できる操作性のある短いハサミが欲しくなり、さまざまなハサミを試した末にたどり着いた一本です。
毎日どんなお客様にも必ず使う相棒のような存在で、愛用しています。
2、学生時代に買ったカミソリ
このカミソリは、理容の勉強を始めた学生時代に初めて教材として購入したもので、気づけば10年以上使い続けています。
今はもう廃盤になってしまいましたが、手にしっくりと馴染み、剃り心地も柔らかくてお気に入りです。
あの世界的バーバー、エリー・ライトのドニーもまったく同じモデルを使っていて、それもまた誇らしく思っています。
3、ヴェイパークリッパー
これは本当に優秀なクリッパー。モーターも刃のパワーも圧倒的に違っていて、誰が使っても上手に切れると感じるくらい完成度が高いです。
あまりに良すぎて、「みんな使えばいいのに」と思うほど。個人的には絶対に買うべき一台だと思っていて、全理容師におすすめしたい道具です。
まとめ
今回はアパッシュメンバーの鈴木について紹介した。
普段の会話からは見えない鈴木の人柄やバーバーとしての熱い想いを知っていただけたら嬉しい。
鈴木ご指名のご予約は、TELまたは東光店ホットペッパーからよろしくお願いいたします。
TEL:0166-52-3297
ホットペッパー東光店 予約
鈴木Instagram