グルーミングアイテムをdigっていく中で「グリース」と呼ばれるアイテムを目にしないだろうか。
ポマード以外のグルーミングに出会うことで、自分のスタイリングに有効なグルーミングが他にもあるのか?役割や効果はどう違うのか?など気になる人も多いのではないかと思う。
この記事では、整髪料における「ポマード」と「グリース」の違いについて、それぞれの語源、歴史、文化などあらゆる角度から紐解き、考察していく。
ポマードとグリースの間には明確な違いはない
結論から言ってしまうと、ポマードとグリースの間に明確な違いはない。
もう少し踏み込んだ表現をするならば、両者を正しく分類するに足りる厳密な定義がないのだ。
日本では「グリース=水性ポマード」として扱われることが一般的であり、主な原料にも大きな違いがない。そのため、整髪料のネーミングに「ポマード」と「グリース」のどちらを使うかはブランドの自由と言える。
ただし「グリース=水性ポマード」という認識は海外では一般的ではない。この背景には、両者の文化や歴史の違いが考えられるだろう。
国内外問わずあらゆるアイテムを見ていく中で、ポマードと呼ばれるアイテムとグリースと呼ばれるアイテムには、以下表のように、それぞれが固有の特徴・背景を幾つか持っていることが判る。
ポマード(pomade) | ・整髪料を意味する単語として定義されている ・油性ポマードと水性ポマードの2種類に分類される ・2010年代以降のバーバースタイル再流行に伴ってポマードの種類が増加し |
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グリース(grease) | ・工業用潤滑油を意味する単語として定義されている ・日本では一般的に水性ポマードと同じ意味で扱われる ・日本のメーカーが販売する商品に多い ・海外では油性の整髪料でも“grease”と名付けられる |
上記の特徴をもとに、以降はポマードとグリースそれぞれの歴史や背景から、両者の違いはどこにあるのか、なぜ表現が異なるのかについて考えていく。
「ポマード(pomade)」の歴史・文化
まずはポマードという整髪料における歴史や文化背景について詳しく見ていこう。
ポマードの起源・歴史
ポマードの起源である「髪に油を塗る」という行為は古代のエジプト時代まで遡ると言われているが、実際に「髪に塗る油」がポマード(pomade)と呼ばれるようになったのは1700年代〜1800年代の時代だ。
当時は豚や熊の脂肪を髪に塗る油として使用していたのだが、その匂いがあまりに動物的であったため、リンゴを混ぜて香りをよくしようとしたのがポマードの原型である。
フランス語でリンゴを意味する“pomma”から派生して“pommade”というフランス語が生まれ、その後時代を経てポマード(pomade)という言葉が世界共通で定着するようになった。
また、1873年に初めてポマードが製品として販売されたという記録がある。
イギリスのMorgan’s Pomadeという企業が1837年に設立され、同年に整髪料として「ポマード」を初めて販売した。言うなれば、この年が現在まで続くポマード文化のスタート地点だと言えるのかもしれない。
バーバースタイルの復権と密接な関係
ポマードは、2010年代以降のバーバースタイルの再流行と強い関連性を持っている。
七三分けでビシッと髪を固めるようなスタイル、サイドとバックを短くフェードで刈り上げてトップも短くしたようなスタイルでは、ポマードを用いたスタイリングをイメージする人が多いのではないだろうか。
具体的には、現代ではハードパート、アイビーカット、クルーカット、クロップスタイル、などと表現されるスタイルが代表的なスタイル例として挙げることができる。
90年代以降において、NBAプレイヤーやラッパーなど、流行のイニシアチブを取るアイコン的な人物たちがバーバースタイルを始めたことをきっかけに、バーバースタイルは徐々に広まり、2010年代から2020年代にかけて世界的な流行にまで及んだ。
その影響で、バーバースタイルのセットに必要なポマードに対する需要も2000年代から2010年代にかけて増えていったという背景がある。
水性ポマードブランドが急速に発展し「ポマード」の定義が広くなる
バーバースタイルの再流行に伴ってポマードに対するニーズも急増し、それに合わせて多くのポマードブランドが誕生した。
Instagramで数万単位のフォロワーを抱えるようなポマードブランドは、2010年前後に創業しているものがほとんどである。
それらの先駆けとなったブランドが、LYRITE(レイライト)だ。
LYRITEのオリジナルポマードは世界初の水性ポマードであり、油性ポマードと同じようなツヤ感・ホールド力を持ちながら水で簡単に洗い流すことができる点において革命的なアイテムだった。そして、LAYRITEに続くような形で多くのブランドが登場し、水性ポマードを販売するようになったのだ。
一部ではあるが、現在世界的に活躍しているポマードブランドをリストアップした。見て判るように、どれも驚くほど同時期に出現している。
ポマードブランド | 国・地域 | 創業年 |
---|---|---|
LAYRITE/レイライト | アメリカ | 1999 |
SUAVECITO/スアベシート | アメリカ | 2009 |
UPPERCUT/アッパーカット | オーストラリア | 2009 |
IMPERIAL/インペリアル | アメリカ | 2009 |
DAPPER DAN/ダッパーダン | イギリス | 2011 |
BYRD/バード | アメリカ | 2012 |
bonafide/ボナファイド | アメリカ | 2012 |
REUZEL/ルーゾー | オランダ | 2013 |
Prospectors/プロスペクターズ | アメリカ | 2013 |
Lockhart’s Authentic/ロックハーツ・オーセンティック | アメリカ | 2013 |
Don Juan /ドンファン | アメリカ | 2013 |
BROSH/ブロッシュ | 日本 | 2015 |
Caballeros/カバゲロス | ブラジル | 2015 |
同時期に多くのポマードブランドが設立された背景には、バーバースタイルの市場の急激な成長に加え、新しい時代のバーバースタイルが「ファッション性・機能性が共に優れた新しいポマード」を求めていたことが考えられるだろう。
従来のバーバースタイルだけでなく、パーマとフェードを掛け合わせたスタイルなど、バーバースタイルの裾野も広がっていった。
それに伴い、ツヤ感を出さないマットなテクスチャーのポマードや、ヘアワックスのように使えるファイバーなテクスチャーのポマードなど、ポマードの種類も増えていった点も現代のバーバーカルチャーの大きな特徴と言える。
整髪料として「グリース(grease)」が誕生した背景
続いて「グリース(grease)」の歴史や背景を詳しく見ていこう。
グリースと呼ばれる整髪料の由来は諸説あり、ポマードと比べると明らかな資料はほとんどない。
まず判ることとして、世界にあるポマードの品数と比べると「グリース(grease)」と呼ばれる整髪料の数は圧倒的に少ないという特徴がある。
さらに、商品名にグリース(grease)と名付けられている整髪料は、多くのケースにおいて日本のメーカーが手がけているのも大きな特徴だ。
ここでは、「グリース」と名付けられる整髪料が、どのような流れで日本に根付いていったのか考えていく。
阪本高生堂「COOL GREASE(クールグリース)」の誕生
先ほども述べたように、日本では「グリース=水性ポマード」と定義されることが一般的だが、この背景には「COOL GREASE(クールグリース)」というアイテムの存在がある。
日本の整髪料(グルーミング)の歴史を辿ると、阪本高生堂というブランドによる「クールグリース」という整髪料と必ず出会うだろう。
1912年創業の化粧品メーカーである阪本高生堂は、古くから油性ポマードの開発も行っていた老舗ブランドだ。
その阪本高生堂が、1970年代に開発したのがクールグリースである。
「水で洗い流しにくい」という油性ポマードのデメリットを克服した初めての整髪料として知られ、水性ポマードの原型だと言われている。現在でも世界的に高く評価され、多くの人に使用されているグルーミングだ。
こうした背景を踏まえると、日本国内で「グリース=水性ポマード」という共通認識が作られたのは、1970年代に台頭したクールグリースの存在が極めて大きかったのだと考えることができるだろう。
そう考えると、グリースと名のつく水性ポマードが日本国内のメーカーの商品に極端に多いという特徴にも頷ける。
ではなぜクールグリースは「グリース(Grease)」と名付けられたのだろうか。
詳しくは後述するが、実際に1950年代〜1960年代のアメリカでは不良たちがグリースという油でリーゼントヘアをたくしあげていた文化があった。
元々クールグリースには、リーゼントヘアのような髪を固めるスタイルを好む人たちに向けて作ったというコンセプトがある。この昔のアメリカンカルチャーを考えると、この「グリース」という言葉の由来もイメージしやすくなるだろう。
海外のブランドにおけるグリース(grease)の扱い
日本では、グリース=水性ポマード として扱われることが基本だが、海外では必ずしもそうではない。むしろ油性ポマードを「grease」とネーミングするケースを目にすることが多い。
アパッシュでも取り扱っているREUZELもその一例だ。
REUZELの公式サイトを見ると、油性ポマードであるピンクポマードとグリーンポマードが「Grease」としてカテゴライズされていることが判る。
また、このREUZELの例はカテゴリーとして“grease”という言葉を用いたケースだが、商品名に“grease”とネーミングしている海外ブランドのグルーミングも存在する。
先ほどポマードブランド一覧に取り上げたアメリカのポマードブランドLockhart’sには「GOON GREASE」という定番アイテムがあり、これは油性のグルーミングだ。
GOON GREASEの商品ページには「Perfect for pompadours, jelly rolls, slick backs, and everything in between! (ポンパドール、ジェリーロール、スリックバック、そんな感じのスタイルに完璧だ!)」と紹介がある。
ポンパドールはリーゼントの別名だ。よって、クールグリースの「リーゼントなどのスタイルを好む人に向けて作った」という特徴と共通している。ポンパドールのように長さのあるトップを柔らかく立たせるスタイリングに使用するのが、グリースに対する海外のイメージだと考えられる。
同じく先述のリストにも記載したポマードブランドDon Juanにも「Hair Grease Pomade」というポマードがある。このアイテムには「ポマード」と「グリース」のどちらの単語も使用されているのが特徴だ。
あくまで「ポマード」という大きな括りの中で、一つの使用イメージとして「グリース」という言葉を用いている点も、海外のポマードブランドに共通している大きなポイントとして挙げられるだろう。
50〜60年代アメリカの文化「グリーサー(greaser)」について
アパッシュのオーナー川上に聞いたところ「グリース」というグルーミングは、自動車の整備士が使う潤滑油(grease)が元になっているのだと言う。
潤滑油で長い髪をたくし上げていくうちにツヤ感が生まれ、髪が立ち上がるようになったことがグリースの始まりになった、というストーリーがあるのだそうだ。
“grease”は潤滑油を意味する名詞だけでなく「油をさす」ことを意味する動詞としても用いられる単語だ。単語の定義を踏まえると、確かにこのストーリーにも強い説得力がある。
また、“grease”から派生した“greaser”(グリーサー)という単語も、グリースを語る上で特筆すべきポイントだ。
“greaser”には「自動車整備士」という意味に加え「不良・暴走族」という俗称がある。そして彼らは、ポンパドールやスリックバックなど、日本で言うリーゼントに通ずるヘアスタイルを好んでいた。先にも触れたように、この“greaser”(グリーサー)は1950年代〜1960年代に流行したカルチャーのひとつだ。
そのような背景を考えると、1950年代〜1960年代当時のアメリカでは不良たち(greaser)をメインに、男たちの間で「髪にグリースする」文化が根付いていたと考えられる。
グリースという言葉を初めて聞いて、ジョン・トラボルタ主演のミュージカル映画「GREASE(1978)」を連想する人も中にはいるだろう。「GREASE」に登場するトラボルタのヘアスタイルは、まさにグリーサーといった風体で、ヘアスタイルもポンパドールだ。
以上の点を踏まえると、海外と日本による「グリース」に対する認識の違いは、次のようにまとめることができる。
海外でのグリース | ・1950〜1960年代のアメリカの不良たち「グリーサー(greaser)」の間で主流だったポンパドールやスリックバックをスタイリングする文化 ・「ポマード」という広い意味の中にある一つの使用イメージ |
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日本でのグリース | ・日本のメーカー「阪本高生堂」が世界初の水性グルーミング「クールグリース」を発売 ・クールグリースの強い影響により日本では「グリース=水性ポマード」という認識が定着する |
結論:現代におけるポマードとグリースの違いは「メーカーがどう売りたいか」の違い
細かく調べていくと、ポマードとグリースにはそれぞれ特有の歴史や文化を持っているということが分かってもらえただろうか。
とは言っても、このような当時のトレンドや文化背景は、あくまでアイテムの歴史でしかない。やはり現代では「ポマード・グリース間に明確な違いはない」というのが結論になってしまうだろう。
ただし、それぞれのバックボーンを踏まえると、ブランド側はネーミングによってユーザーに対して「使ったときのイメージ」を与えることができる、という側面もある。
バーバースタイルが再流行している現代では、「ポマード」と表現した方が、よりバーバースタイルに対して忠実な印象を持たせることができ、商品として売れやすい市場になっているのかもしれない。
そのため、グルーミングを選ぶときは「ポマード」もしくは「グリース」などのアイテム名だけで判断するのではなく、ブランドが込めたこだわりやスタイリングサンプルを参考にするのがベストと言える。
作る粘度やテクスチャーにも各ブランドのアイデンティティが込められているので、様々なグルーミングを試してみるのも貴重なバーバーの楽しみ方のひとつだ。
バーバーおすすめのポマード・グリース紹介
「ポマードとグリースの間に明確な違いはない」という前提をもとに、この記事で解説した歴史や文化背景を踏まえて、おすすめのグルーミングをポマード・グリースに分類して紹介する。
ポマード
BROSH Pomade Original
BROSHは、アパッシュのオーナー川上も開発に携わった、MEDE IN JAPANのポマードブランドだ。定番のオリジナルポマードは、日本人の髪質に合わせたホールド力と適度なツヤ感を持ち、あらゆるバーバースタイルのセットに取り入れることができる。香水のような甘さとスパイスの効いた香りが特徴的。
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LAYRITE Original Pomade
本文でも紹介したように、LAYRITEは世界に先駆けて水性ポマードを生み出したポマードブランドだ。甘いクリームソーダの香りが特徴的で、柔らかい髪質に特に適しており、ツヤ感のあるクラシックなバーバースタイルを忠実に再現することができる。
LAYRITE Original Pomadeの商品ページはこちら
REUZEL Blue Pomade
REUZELは、世界トップの人気を誇るオランダ・ロッテルダムのバーバーショップ「SCHOREM(シュコーラム)」がプロデュースするポマードブランドだ。
ブルーポマードはホールド力が強く、日本人の硬い髪でもしっかり抑えることができる。
グリース
REUZEL Green Pomade Grease
REUZELのグリーンポマードは、RUZEL定番の油性ポマードだ。
油性ポマードならではのなめらかなテクスチャーを楽しむことができ、一日中コームを通してスタイリングを調整することができる。
お菓子のような甘い梨の香りが特徴的だ。
REUZEL Green Pomade Greaseの商品ページはこちら
REUZEL Pink Pomade Grease
REUZELのピンクポマードは、グリーンポマードのホールド力を強くしたバージョンだ。
香りもグリーンポマードと比べて甘さが強い印象がある。
よりビシッと油性ポマードでタイトにスタイリングしたい人におすすめだ。
REUZEL Pink Pomade Greaseの商品ページはこちら
まとめ
この記事では、ポマードとグリースにはどんな違いがあるのか、それぞれの歴史や文化から紐解いて解説した。
アパッシュでは、背景にストーリーを持っているかどうかを基準に選んだブランドやアイテムを取り扱っている。
個人はもちろん、サロンやバーバーの方々に卸での注文も承っているので、気になるアイテムがある人はぜひ一度通販サイトをチェックしてみてほしい。